紀尾井トピックス

邦楽

2025年09月26日 (金)

「光」を伝える舞を探して~中村壱太郎、金沢公演に向けて能登半島・珠洲市を訪問

10月12日開催の『光 ― HIKARI ― 』(石川県立音楽堂)に出演する歌舞伎俳優の中村壱太郎さんは、インターネットを介して、美術作家の中島伽耶子さんの作品『あかるい家』に出会いました。現地で得られるインスピレーションを大切にしたいという壱太郎さんの強い思いにより、今回の取材となりました。

 金沢駅から石川県珠洲市まで車で片道約3時間。「この地域は美意識が高い」と語る中島さんは、珠洲市の光と人々の暮らしの豊かさに思いを巡らせながら、作品制作に取り組んだといいます。『あかるい家』(2021年制作、同年の奥能登国際芸術祭にて展示)に到着して足を踏み入れた瞬間、壱太郎さんはその美しい光に、「すごい、きれい!」と思わず感嘆の声をあげました。
 2024年1月に発生した能登半島地震の影響で、地面には亀裂が入り、段差が生じました。扉は新たに作り直されるなど、現在も修復作業が行われていますが、アクリル棒が刺さった屋根瓦は落下することなく、家を守り続けています。

 「芸術が家を助けた」と静かに呟いた壱太郎さんは、壁に手を添えてじっと思索にふける場面もあれば、屋外からも家を観察し、中島さんに積極的に質問を投げかけメモを取るなど、真剣なまなざしで作品と向き合っています。この「アクリルと光」という要素を、劇場の舞台でどのように活かすか、二人は熱心に意見を交わしながら検討を重ねていきました。

 現地を訪れた後、中島さんは「まずは珠洲の現状を見てもらいたかった。復興途中の地域の様子や、そこに暮らす人々の生活を知ったうえで、何か一緒にできるほうがきっと良いと思いました」と話します。今回案内した場所で壱太郎さんが共鳴している姿を見て、「一作家として尊重してくださり、私もその思いにしっかりと応えたい」と、力強く意気込みを語りました。

 一方、壱太郎さんは「大変難しいことではありますが、実際に現地を訪れなければわからないことを胸に刻み、直接的ではなく、内側から表現していきたい」と語っています。「芸術作品や土地をもとに、ゼロから舞台を創り上げることは今回が初めてであり、心に深く残る作品を創りたい」と、挑戦への決意を新たにしました。 

 公演では、互いに同い年の壱太郎さんと中島さんが作り出す新しい舞台作品とともに、二人の創作への思いや珠洲での体験を語り合うトークも予定されています。作品をより深く楽しめるまたとない機会です。今回の訪問が、どのような舞台作品へとつながっていくのか、期待に胸が高鳴ります。

取材・構成/紀尾井だより編集部
撮影/田川紘輝

響きあう和と洋シリーズ
10月12日(日)14時開演
日本製鉄紀尾井ホール&石川県立音楽堂 連携事業
光 – HIKARI –