新メンバー対談「人生を変えた一曲」~第3回/助川 龍&岩佐雅美

誰にでも、自分の中の何かが変わるきっかけになった音楽があるのではないでしょうか。
そんな一曲を肴に、紀尾井ホール室内管弦楽団の新しいメンバー二人が語り合う一夜。
第3回はオイスターをはじめ、おいしい欧風料理をワインとともに̶――。(構成・文/宮本 明)

助川 初めまして、ですよね。

岩佐 ええ。でも去年の仙台フィルと読響の合同の《第九》は乗っていました?

助川 はい。じゃあ、同じステージには乗っていたんですね。

岩佐 お住まいは仙台なんですよね?

助川 はい、でも実家は江戸川区です。総武線。

岩佐 私は千葉県の市川出身なんです。

助川 すごく近いですね。ぜひ一度訪ねてみてほしいのが、うちの近所の昔ながらの昭和の喫茶店。マスターご夫婦でやっているお店なんですけど、そこのホットケーキがすごく美味しいんです。テレビ番組で「日本一のパンケーキ」と紹介されたんですけど、あれはパンケーキじゃなくてホットケーキ。最近は行列ができて、地元の人が行けなくなっちゃったんですけど、あれはぜひ食べてほしいです。

 

師・池松宏との出会いが人生を変えた

 


岩佐 音楽はいつから?

助川 遅かったです。高校生の時。ジャズとかロックとかが好きで、エレキベースをちょっと弾いていたのですが、クラシックには全然興味がなかった。

岩佐 それがどうして?

助川 高校を卒業したらジャズの道に進もうと、ウッドベースを習いに行ったら、「キミ、筋がいいね」と言われてその気になって(笑)。高校2年の夏です。講習会で池松宏先生に出会って音大受験を決めました。紹介されたソルフェージュの先生はなぜか声楽科を受験するのだと勘違いしていたみたいで、発声練習からやらされました(笑)。岩佐さんは吹奏楽からですか?

岩佐 はい、中学から。小学校の時はフルートだったんですけど、希望者が多くて、回されたのがファゴットでした。でもファゴットという楽器を見たこともないし、音を聴いたこともない。たまたま家にあったCDでN響の《悲愴》を聴いたら、解説にはファゴットのソロで始まるって書いてあるのに、あれ、でも(ピアニッシモなので)全然聴こえないぞと、スピーカーに耳をくっつけて聴きました(笑)。それがファゴットとの出会いなんです。でも意外にのめり込んでしまって。吹奏楽のファゴット・パートって実際にはあんまり楽しくないんですけど、なぜかすごく楽しかったんですね。顧問の先生の紹介で、吹き始めた時から霧生吉秀先生に教えていただきました。


助川 管楽器はソロなので、皆さんエラいなあと思っています。こっちは普段8人とかで弾いているので多少間違えても(笑)。オーケストラで2番ファゴットの方を見ていて一番印象的なのは《第九》の第3楽章の冒頭でファゴット2番のソロから始まって、ファゴット1番→クラリネットと重ねてゆくところ。本番が近づくとみんな、なんかソワソワしだして。

岩佐 あれは嫌ですね。出だしのシ♭-ラという音がファゴット的に、弱く吹くと高くなりやすいんです。毎年9月を過ぎた頃からどうしようかと悩み始めます(笑)。

助川 わかります。毎年必ず演奏しますからね。僕は《新世界》がすごく嫌です。第2楽章の最後、コントラバスだけの和音で終わるところ。なかなか音程が合わなくて。

 

頭で考えずに感じた合奏の楽しさ

 

岩佐 お題の「人生を変えた一曲」ですけど……。


助川 僕は音楽を好きになったのがロックなので、どっちかというとそっちかなあ。ディープ・パープル。中学の時に初めて行ったコンサートがディープ・パープルの武道館公演だったんです。あれを聴いて、音楽っていいな、ベースかっこいいなと思ったので。クラシックで言うなら、テレビで見たブラームスの交響曲第1番です。その時は何の曲か知らなくて、実際に弾いたのはもっとあとでした。オーケストラ奏者でブラームスを嫌いな人はあまりいないと思いますが、コントラバス奏者にとっても大事な曲です。

岩佐 私は出会いという意味では《悲愴》なんですけど、もうひとつ、大学院の最後の試験で演奏したヴィヴァルディのファゴット協奏曲も大きな体験でした。学生の時って、オーケストラや室内楽よりも、どうしても個人の練習に重きを置くことになると思うんですが、その時に初めて、みんなと一緒に演奏することの楽しさを感じたんです。先生からも「楽しんでいるのが聴いていてもよくわかった。音楽ってこういうことなんだよ」って言われて。頭で考えずに音楽を感じた初めての体験でした。

助川 んー、いい答えが出ました!(笑)

 

 

助川 龍 ●すけがわ・りゅう コントラバス 岩佐雅美 ●いわさ・まさみ ファゴット
東京都江戸川区出身。仙台フィルハーモニー管弦楽団コントラバスソロ首席奏者。あだ名はりゅうちゃん。趣味は、珈琲を美味しく淹れること。演奏家になっていなかったら、料理人になっていた?プチ自慢は、目覚まし時計より早く起きる! 千葉県市川市出身。読売日本交響楽団ファゴット奏者。あだ名は、まちゃみ。趣味は、犬を愛でること(世の中の犬すべて)、パン作り。演奏家になっていなかったら、獣医もしくは、動物関係の仕事に就いていた? プチ自慢は、目(視力)がいい、一度通った道はだいたい覚えている。

 

本日のおいしい隠れ家