ミュンヘンの腕利きと紀尾井の名手たちの共演を
紀尾井ホール室内管弦楽団 コンサートマスター、アントン・バラホフスキーが語る


「今回のプログラムはマーラーの『さすらう若人の歌』とブルックナーの『交響曲第7番』ですが、私自身室内楽版で演奏するのも、この2曲を同じ公演の中で演奏するのも初めてです。もちろん2曲ともバイエルン放送交響楽団はじめオーケストラでこれまで何度も演奏しています。ブルックナーならクラウディオ・アバドやヘルベルト・ブロムシュテット、また当然、バイエルン放送響首席指揮者のマリス・ヤンソンスら、超一流の指揮者たちと演奏してきましたし、『さすらう若人の歌』はマティアス・ゲルネやクリスティアン・ゲルハーヘルといった、素晴らしい歌手たちと共演しています。
 
 マーラーやブルックナーの大編成のオーケストラ作品を室内楽用に編曲するというアイディアは、大人数で演奏できる大舞台――必然的にそれは大都市の大きなホールになるわけですが――だけでなく、大交響楽団を呼べない小さな都市の小さな空間でも、これらの素晴らしく美しい音楽を演奏できるようにするというコンセプトによるものです。
 
 オーケストラの楽員という立場でみると、こういう作品を室内楽編曲版で演奏する、つまり、指揮なしで互いの目を見ながら音を聴き合って、自分たちのアイディアで音楽を作っていくというのはとても面白い機会です。演奏中は常に目と耳で互いにコンタクトを取り合うのがとても大切ですが、大編成のオーケストラでは残念ながら楽器同士の距離が遠くて、室内楽のような演奏はなかなかできないからです。
 
 今回は、バイエルン放送響と紀尾井ホール室内管弦楽団の腕利きの仲間たちと一緒に演奏できるのがとても楽しみです。バイエルン放送響のメンバーとはいつも舞台を共にしていますし、紀尾井ホール室内管では、これまで約10年にわたってコンサートマスターやソリストとしてとても楽しく演奏してきました。双方のオーケストラの持ち味が溶け合って極上の演奏になるものと確信しています。『音楽は世界共通の言葉』と、よく言われますが、双方の演奏家はその『言葉』を完璧に話せるのですから」


 

アントン — その幼少期から今に至るまで

 「私はノヴォシビルスクの音楽家の家庭に生まれました。両親ともに合唱団の歌い手であり指揮者でも
ありました。兄と私はいつもその合唱団の練習に行っていたようです。兄のミハイルがヴァイオリンを習い始めると、母は兄のレッスンにいつも私も一緒に連れていきました。『そのときあなたは目を輝かせて興味津々でお兄さんのレッスンを見ていたのよ』と母は言っています。私自身は4歳頃のことなのでよく覚えていないのですが。
 
 その後、当時名高いヴァイオリン教師のひとりであった、ノヴォシビルスク音楽院のマトウェイ・リーバーマン先生のもとでヴァイオリンを習い始めました。同じころ、ザハール・ブロン先生が教える別のクラスには、今も大切な友人であるワディム・レーピンがいて、またしばらくするとマキシム・ヴェンゲーロフもヴァイオリンを習い始めました。思うに、いい意味での『競争』がそこから始まり、子どもだった私たちが、年上の人たちや大人が弾くような難しい曲を弾けるようになっていったのです。
 
 私たちは年に数回大きなステージで演奏する貴重な機会に恵まれたほか、素晴らしい音楽家アルノルト・カッツが指揮するノヴォシビルスク・フィルとともにロシア内外で演奏することもありました。
 
 その後、ドイツに渡ってハンブルク音楽大学でマルク・ルボツキーやコーリャ・ブラッハーのもとで学び、さらにニューヨークのジュリアード音楽院ではドロシー・ディレイやイツァーク・パールマンの薫陶を受けました。各国で研鑽を積みながら、世界中の数々のオーケストラとともに仕事をするようになり、ハンブルク・フィルなどを経て、2009年からバイエルン放送交響楽団で第1コンサートマスターを務めています」
 
 

●アントン・バラホフスキー(ヴァイオリン)
ロシア・ノヴォシビルスク生。ブラッハー、ディレイらに師事。1997年ヤング・コンサート・アーティスト国際オーディション(米国)で優勝後、ニューヨーク・デビュー。以後、ソリスト、室内楽奏者としても活躍。現在、バイエルン放送響・第1コンサートマスター、紀尾井ホール室内管弦楽団・コンサートマスター。
 

公演情報

2018年12月5日(水)19時開演
紀尾井ホール室内管弦楽団管弦楽団によるアンサンブルコンサート3
バラホフスキーとともに
バイエルン放送交響楽団の名手たちを迎えて
ブルックナー交響曲第7番(室内楽版)