紀尾井 明日への扉 樋渡希美インタビュー
「紀尾井明日への扉」に出演する注目の打楽器奏者、樋渡希美に、公演に向けて思いを聞いた。(構成・文/柴田克彦、再構成/制作部)
※本稿は、2020年9月に行ったメール・インタビューと、2021年5月の再インタビューを構成したものです。
楽器を始めたきっかけとプロを目指すきっかけを教えてください。
小学校の金管バンドではユーフォニアムに、次いで中学校の吹奏楽部では講師の先生と先輩の演奏姿に憧れて選んだ打楽器に夢中になりました、打楽器をさらに学びたいと望んだ私は、高校の先生の後押しもあって音楽大学に進学。その際に先生から音楽を学ぶ理由を訊かれて、『音楽をしているとき、”あぁ、私、生きてる” と感じるからです』と答えると、『自分が感じるだけでなく、今後はそれを伝える側にならなければ』と言われました。当時は真意を理解していませんでしたが、音大最後の年に人生初の国際コンクールのファイナルで演奏した後の歓声と拍手の嵐を聞いて、”あぁ、これだ。お客様もきっと同じ気持ちで楽しんで下さってる” と感じ、その日を境に、たくさんの人と音楽の素晴らしさを共有できる音楽家になろうと、本当の意味で思うようになりました。
現在ドイツに留学中ですが、活動状況は?
シュトゥットガルト音楽演劇大学のソリスト科で学びつつ、コロナ禍以前は、ヨーロッパ各国の音楽祭やミサでの演奏、小さなマスタークラスやワークショップを行っていました。
最近では大学内にコロナ検査場ができ、ほぼ毎日コロナ検査を受けられるようになりました。大学内に人が沢山密集しないよう細かな練習規定ルールがあり、以前のようにキャンパスを利用したり、長時間友達と話すことはできませんが、それでも大学で練習できるのはありがたいです。特に打楽器は自宅で練習しにくいので、数時間でも大学を利用できることが嬉しいです。
「紀尾井 明日への扉」出演が決まったときの思いは?
出演のオファーをいただいたときは、あまりにも嬉しくて、夢を見ているのか、とパニックになっておりました。それと同時に、正直不安もありました。というのも、これが私にとって人生初のソロ・リサイタルになること、そして偉大な芸術家が演奏してきたこの素敵なホールで私が演奏させていただくなくなんて、恐れ多い!という気持ちもありました。しかし、この素敵な演奏機会をいただけたたことに感謝し、全力で最高の音楽をお客さまに届けられるように準備して参ります。
今回のプログラムについてお聞かせください。
今回は私が演奏したい曲を全てプログラムに詰め込んでみました。
特に第1部の全曲をまとめて”1つの作品” と考え、私たち人間がうちに秘める想いや感情を深い色とともに表現したいと考えています。《インプロヴィゼーション》(自身作曲)を冒頭に演奏させていただくのですが、その名の通り完全なる「即興演奏」を共演者仲間と演奏致します。毎日変わる天気や温度、自然現象を様々なキャラクターをもつ楽器を使って音で表現したいと思います。完全なるインプロヴィゼーションなので、 私もどのような音楽になるのかは本番当日まで全くわかりません。ホール内でどのような音が生まれるのか、その時にしか感じられないサウンドを楽しみにしています。
第2部では皆さんが聴き馴染みのある曲を鍵盤楽器で演奏したり、コメディ感溢れるシアターミュージック、お囃子をモチーフとして作曲された日本魂宿る邦人曲を演奏するなど、打楽器ができるあらゆる音楽を盛りだくさんに詰め込んだプログラムです。
私が編曲しましたドビュッシーとラヴェルは今回マリンバとヴィブラフォンのデュオで演奏します。ピアノとは違い、マリンバは音を長く維持することができないので、オリジナルをそのまま再現することはできません。しかし、一つの可能性として打楽器の鍵盤楽器でもさまざまなジャンルの音楽を演奏できる、ということを表現できたら嬉しいです。打楽器ならでのドビュッシー、ラヴェルをお楽しみください。
そして最後に三木稔作曲の《マリンバ・スピリチュアル》を演奏させていただきます。この曲は秩父屋台囃子のリズムをもとに作曲されていて、ソロマリンバと3人のパーカッションで演奏しますが、パーカッションプレイヤーは日本の和楽器(締太鼓、大太鼓、ささらやチャンチキ)を使用します。
こんなことまで打楽器奏者はやるの⁈と驚いたり喜んでいただけたら嬉しいです!
今後どんな音楽家を目指したいですか?
自分に正直な音楽家でありたいと思っています。「音楽のよさを伝えられる音楽家」になれればと思っています。また、時を超えて受け継がれてきた曲を、次の世代にも引き継ぐことができるような音楽家でありたいですし、もっと日常にクラシック音楽が自然に入り込んで、親しむ機会が増えるようになるにはどうしたらよいか考えたいと思っています。
最後にお客さまに向けて、公演への抱負を。
今回は人生初のソロ・リサイタル。日々不安と緊張に充ちた中で公演ができることに感謝の気持ちを込め、”生きた演奏” を楽しんでいただけるよう全身全霊を尽くします。そしてその場のその瞬間にしか出せない表現や感情をお客様と共有できるよう、全力で準備して参ります! 是非お越しください!
樋渡希美 ●ひわたし・のぞみ 打楽器
東京音楽大学を首席で卒業し、同大学卒業演奏会に出演。ミュンヘン国際音楽コンクール2019セミファイナリスト。第14回イタリア打楽器コンクール・ マリンバ部門第2位受賞。第34回日本管打楽器コンクールマリンバ部門入賞。2016年度東京音楽大学給費生及び瀬木芸術財団法人短期海外研修奨学生に選ばれ、奨学金を授与される。モーツァルテウム国際夏期アカデミー2016を大学より奨学金を得て受講。2017、18、19年度YAMAHA音楽奨学支援の奨学生。2020年度INTERSTIP-Stipendiumより奨学金を得る。
これまでに菅原淳、神谷百子、久保昌一、村瀬秀美、石内聡明、西久保友広、一丸聡子の各氏に師事。2017年の秋からドイツに留学し、現在シュトゥットガルト音楽演劇大学ソリスト科課程に在籍中。マルタ・クリマサラ、クラウス・ドレハー、ユルゲン・シュピチュカの各氏の元で研鑽を積んでいる。
2020年アイントホーフェンTROMP国際打楽器コンクールにて第2位およびヴィレム・フォス賞を受賞。
紀尾井 明日への扉 第29回樋渡希美(打楽器)※2020年度振替公演
[曲目]
樋渡希美:トーキングドラム in Stuttgart(インプロヴィゼーション)
イグナトヴィチ=グリンスカ:マリンバのためのトッカータ
グロボカール:?身体~ボディ・パーカッションのための
福士則夫:グラウンド~ソロ・パーカッションのための(1976)
ドビュッシー/樋渡編:月の光
ラヴェル/樋渡編:《クープランの墓》よりプレリュード
べニーニョ、エスペレ、ノワイエ:これはボールではない(トリオ・ヴァージョン)
三木稔:マリンバ・スピリチュアル op.90〜マリンバ独奏と3人の打楽器奏者のための(1984)
[共演]
トビアス・ジェドレム・フルホルト,ローレンツ・カラゼク,石田湧次(打楽器)