インタビュー:﨑谷直人(ウェールズ弦楽四重奏団)&大友肇(クァルテット・エクセルシオ)

「Quartet Plus(クァルテット・プラス)」は、弦楽四重奏を核に、選りすぐりのゲスト・アーティストを編成に「プラス」して、多彩なアンサンブルを楽しめる好評企画。ウェールズ弦楽四重奏団とクァルテット・エクセルシオ、2つのクァルテットが隔年交代でホストを務めるフォーメーションもユニークだ。その両者が初共演でジョイントして弦楽八重奏曲を奏でる注目のシリーズ最終公演を前に、ウェールズの第一ヴァイオリン奏者・﨑谷直人とエクセルシオのチェロ奏者・大友肇に語ってもらった。(取材・文/宮本 明)

———これまで挨拶程度に言葉を交わしたことはあるものの、正面きって話すのはこれが初めてという二人。結成15周年のウェールズ弦楽四重奏団と、27年目を迎えたクァルテット・エクセルシオ。お互いのグループの存在をどのように意識しているのだろう。

 

﨑谷 エクのみなさんがいなかったら僕らはなかったと思うんです。クァルテットだけを突き詰めて常設でやっていくのがアメリカやヨーロッパ以上に難しい日本で、長い間、弦楽四重奏のシーンを作ってきてくださった。
 
大友 うん、続けるっていうのが目標でね。
 
﨑谷 僕らも今は4人ともオーケストラとか別の活動もしていますが、2013年までスイスに留学して、クァルテットしかやってなくて。日本に帰ってこのまま続けられるんだろうかとか、いろんな不安や葛藤もあって怖かった時、クァルテットを弾くことに情熱を注いでいる先輩がいたというのは大きかったです。
 

大友 誰かが、「あんなのでもなんとかやっていけてるんだから大丈夫だろう」と考えてくれるといいなと思ってやってます(笑)。われわれも、かつて巖本真理弦楽四重奏団が年間100回も本番をやっていたというすごい記録を見て、自分たちの活動のイメージにしていたんです。
 
﨑谷 僕らもどうにかこうにか続けてきてやっと、「こういうやり方もあるよ」と後輩に示せればいいかなと思えるようになってきました。今、クァルテット・インテグラとかチェルカトーレ弦楽四重奏団とか、若い子たちも出てきて、少しずつ繋がっているのかなと思っているんです。
 
大友 彼らのような若いクァルテットが熱意を持って活動しているのを見るのはすごく嬉しいよね。熱を持って何かを表現をしているかどうかが大切で、常設か常設でないかというのはあまり関係ないんです。クァルテットとしての存在をちゃんとアピールしていけるといいんだけど、ウェールズはそういう存在感がすごくあるのが素晴らしいなと思っています。それが脈々と受け継がれていくといい。
 
———コンサートでは、日本の室内楽界を牽引する2つのクァルテットが合体する弦楽八重奏が室内楽ファンの関心を集める。
 
﨑谷 ウェールズとして4人で弦楽八重奏に参加するのは初めてなんです。そのあたりの感覚を教えてください。
 

大友 われわれは何度か経験しているけど、4対4というか、クァルテットの対決みたいになったことはないですね。結局8人が一人ひとりの個性で混じり合う感じになる。でももちろん、やっぱりウェールズさんのスタイルというのはあると思うので、実際に音を出して、混じり合って、音楽を作っていくとどうなるのかは楽しみです。
 
﨑谷 クァルテットって、どうしてもその4人の世界観ができてくるじゃないですか。でも同じメンバーとクァルテットの外で会ったり、違うところで一緒に演奏したりすると、相手にまた全然違う引き出しがあったことに気づくんです。「そんなの持ってたのかよ!」って。今回は僕も、ウェールズのファーストとしてとかではなく、あまり気負わずに、﨑谷直人としてナチュラルに弾けたら、すごく面白くなるんじゃないかと想像してます。
 
大友 もちろん、ソリスト8人が集まるのと比べると、バランスを作ることとか、アンサンブルのスタート地点が全然違うので、クァルテット同士でやると到達点が違うなという感じはあるかな。
 
﨑谷 そうですよね。ひと口に室内楽を弾く技術と言っても、同じメンバーと作り上げていくのと、いろんな状況でどんな人と弾いても対応できるっていう能力はまったく違うじゃないですか。それってたぶん、自分のクァルテットを持ってやってみないとわからない感覚なのかなとは思います。
 
モーツァルト、ウェーベルン、ショスタコーヴィチ、武満が並ぶ、実に刺激的かつスタイリッシュなプログラムのメインは、メンデルスゾーンの弦楽八重奏曲。この編成の代表曲だ。
 
大友 本当に素晴らしい曲。弦楽四重奏とか、すべての編成の室内楽曲を含めてもかなり上位に入る作品の完成度というか、名曲度というか。これを弾くと本当に幸せな気持ちになるし、仲間と演奏できる喜びを感じる。
 
﨑谷 僕も同じです。メンデルスゾーンの作品の中でも素晴らしい作品なので。こうやって2団体で一緒に作るのは本当に光栄ですし、きっと楽しい機会になると思います。お客様にとってもね。あらためて曲の魅力が伝わったらいいなと思います。
 

———対話の中で印象的だったのが、今回の共演について、二人がともに「ドキドキする」「緊張している」と口にしたこと。「ワクワクする」「興奮している」と置き換えてもいいのだろうけれど、実力も経験もトップのクァルテットである彼ら。演奏上の表層的な懸念などもちろんないわけで、その彼らをざわつかせるのは、より深いところでで神経をすり合わせるような音楽の高み・極みへのチャレンジであり、同時に、逆にもっとピュアな意味での、仲間と音を合わせるというシンプルな喜びへの期待なのだろう。どちも室内楽の醍醐味。トップ・プレーヤーたちにそう語らせる、音楽ってやっぱり素敵だ。
 

Quartet Plus
ウェールズ弦楽四重奏団+クァルテットエクセルシオ

<公演延期>
 
【曲目】
モーツァルト 弦楽四重奏曲第7番変ホ長調
ウェーベルン 弦楽四重奏のための緩徐楽章
武満 徹 ソン・カリグラフィⅠ
ショスタコーヴィチ 弦楽八重奏のための2つの小品から“スケルツォ”
メンデルスゾーン  弦楽八重奏曲変ホ長調
 
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